ベンチマークテストに使われる関数なんだそうですが、シンプルな外見に似合わず、計算に無茶苦茶時間がかかる関数だそうです。
Schemeでの定義は以下の通りです。
(define (tak x y z)
(if (<= x y)
y
(tak (tak (- x 1) y z)
(tak (- y 1) z x)
(tak (- z 1) x y))))
環境にもよるんですが、あまり大きな実引数を与えると計算がなかなか終わりません。PLT Scheme依存の
time
手続きで時間を計ってみます。なお、CPUはCore2DuoのT7500の2.2GHz、メモリは2GBです。
> (time (tak 10 5 0))
cpu time: 20 real time: 21 gc time: 0
10
> (time (tak 12 6 0))
cpu time: 388 real time: 388 gc time: 0
12
> (time (tak 18 12 6))
cpu time: 376 real time: 379 gc time: 0
18
>
まあ、実際各自マシンで試してみてください。「意外と計算に時間がかかる」と思うでしょう。
ところで、風の噂で聞くには、この竹内関数、Haskellと言うプログラミング言語ではちょっぱやで計算終了しちゃうそうです。へえへえへえ。どうやら、Haskellの伝家の宝刀、遅延評価は竹内関数の天敵らしい。
遅延評価、と言えばSchemeも遅延評価を備えています。しかし今まで使い勝手が良く分からなかったんでマトモに触った事がありませんでした。
曰く、
評価しなければならない値が存在するとき、実際の計算を値が必要になるまで行わないことをいう。
………。
な~んか、日常生活的な感覚から言うとあまりに当たり前のような気もしますがねえ……。あまりにも当たり前の事が出来ないのが前提なら、コンピュータってメンド臭えな。マジな話、実感としてはそんな感じですよ。プログラミング言語の世界って日常生活的には当たり前の事を大げさに言ってる、ってたまに感じます。
脱線しますが、例えば、
彼女になりそうな女性が存在するとき、彼女が必要になるまで口説かない。
とか言われると当たり前でしょ(笑)?彼女がいるのに別の女性を口説いたりしたらそれは人非人と後ろ指さされる世の中です(笑)。僕がプライベートでどう言う行動を取ろうが関係なく、まあ、そうですよね(笑)。プログラミング言語で「遅延評価」とか言ってますが、人間の行動なんて多かれ少なかれ遅延評価、です。別に特別な話じゃない。
実際問題、コンピュータの世界では人間の「常識」がいまだ通用しない世界なんですね。前にも書きましたが、プログラミング言語に於ける「抽象性」と言うのは、人間の常識に近づいてる事だ、と言うのはこう言う事なんです。竹内関数がコンピュータでクソみたいに計算に時間がかかるのは、女と見れば見境なしに手を出してるロクデナシみたいな事をプログラミング言語が行っているから、です。そう言う評価形式を先行評価と呼ぶらしい。そして竹内関数はそう言う女ったらしに鉄槌を下す。
いずれにせよ、我々の世界では、遅延評価が当たり前で先行評価が「異常」です。しかし、プログラミング言語の世界では、まだまだ「我々の行動原理で言う異常」が当たり前ならしい。そしてプログラマはその世界にどっぷりと浸かってなれざるを得ない。
そんな中でHaskellとSchemeは「ちょっとだけ」僕等の常識に近いトコにいるんですよね。Haskellは遅延評価がデフォですが、Schemeではちょっと工夫しないとならない。いずれにせよ、早いトコ、もっと人間側の常識に従っているプログラミング言語が普及して欲しいものです。
さて、Schemeでのその「工夫」ですけど。マクロを使って次のような
if
の亜種を作ります。名づけてlif
(lazy-if
の意)です。
(define-syntax lif
(syntax-rules ()
((_ _cond _then _else)
(force (if (delay _cond)
(delay _then)
(delay _else))))))
ここで
delay
はS式の評価を遅延させるための特殊形式です(出来たものをプロミスと呼びます)。そしてforce
はプロミスを強制評価する為の手続きです。この
force
とdelay
を同じマクロ内に書いても意味が無い、と思われるかもしれませんが、さにあらず。特殊形式if
は述語判定が行われないと第二引数ないしは第三引数が評価されません。しかしながら条件節自体がプロミスなので、評価ははじまりません。故にif
が形作るS式は全体として評価が遅延されている。また、マクロ自体もマクロ展開が行われないと評価が開始されません。そして
delay
のせいでどう言う展開形に落ち着くのか、はこのlif
はまだ知らないのです。従って、force
も発動しようがないのです。このマクロ
lif
を使えば、ltak
(lazy-takeuchi
)手続きは次のようにオリジナルのtak
手続きと殆ど同様に定義可能です。
(define (ltak x y z)
(lif (<= x y)
y
(tak (tak (- x 1) y z)
(tak (- y 1) z x)
(tak (- z 1) x y))))
実際、インタプリタで計測してみましょう。恐ろしい程の竹内関数のベンチマークを叩き出します。
> (time (ltak 10 5 0))
cpu time: 0 real time: 0 gc time: 0
5
> (time (ltak 12 6 0))
cpu time: 0 real time: 0 gc time: 0
6
> (time (ltak 18 12 6))
cpu time: 0 real time: 0 gc time: 0
12
>
全く計算時間がかかってない事が分かるでしょう。すげえ、ブラボー!!!Viva!遅延評価(笑)!!!
それどころか、マトモな竹内関数だったらいつ計算が終わるか分からない次のような大きな引数を与えても難なく
ltak
は結果を返してくれます。
> (time (ltak 100 50 0))
cpu time: 0 real time: 0 gc time: 0
50
>
すっごいですね~~。一瞬で答えを返してくれます。これも「値が必要になるまで評価しない」遅延評価版の竹内関数ならでは、の仕事です。オリジナルはよっぽど無駄な計算をしてるんでしょうね。こちらは不必要な計算は全く行わないので、迅速に計算結果が返ってくるのです。
面白いですね、遅延評価。また何かあったら使ってみたいな、と思います。
oh、なるほど遅延評価の恩恵の例ですね。
返信削除具体的にどんな時やくに立つかわからなかったので、
助かりました。
参考にさせていただきます。
>具体的にどんな時やくに立つかわからなかった
返信削除そうなんですよね(笑)。なかなか使いどころが分からん機能で…(笑)。
もっと研究してみたいですね。
亀ですが。
返信削除上の方に載っている実行結果と下の方の実行結果が違っているのにお気づきでしょうか。
(lif hoge fuga piyo) は (force (if (delay hoge) (delay fuga) (delay piyo))) に展開されますが、これは hoge の値が真であっても偽であっても (delay fuga) が評価されることになります。なぜなら、 (delay hoge) で返されるプロミスは(#fとは異なるオブジェクトのため)真偽値としては真として扱われるためです。
したがって、(lif (<= x y) y (tak (tak (- x 1) y z) ...)) は (<= x y) の結果が真であっても偽であっても y が評価なります。その結果、ltak の結果は常に第2引数の値と同じになってしまいます。
>> athos さん
返信削除うわあ、何やってんだろ、僕。
すいません、ご指摘ありがとうございます。
(しかも、計算コードさえ間違ってる…orz)
lifをマクロで定義するなら、記事に書いたような単純なヤツじゃダメですね。
多分次のようにしなくちゃならないのでは、と。
(define-syntax lif
(syntax-rules ()
((_ (_cond x ...)
_then
(_else val ...))
(if (_cond (force x) ...)
(force _then)
(_else (delay val) ...)))))
これなら、おそらく竹内関数はそのまま定義可能でしょう。
(define (ltak x y z)
(lif (<= x y)
y
(ltak (ltak (- x 1) y z)
(ltak (- y 1) z x)
(ltak (- z 1) x y))))
;;; 実行結果
> (time (ltak 100 50 0))
cpu time: 8 real time: 7 gc time: 0
100
>
ltakが汎用マクロとして定義可能なのかどうかはちょっと微妙ですけどね…。と言うかかなり微妙な雰囲気です。